君が月に帰るまで
いいか悪いかわからないけど、楽しむことはできた。西野弥生が気になるけれど、これでよしとする。
帰ると、向田がみんなの分のカツ丼を作ってくれていた。もうクタクタのヘトヘト。みんなはガツガツ無言でカツ丼をかけ込むとそれぞれ帰り支度をはじめた。
「みんな、あのさ」
はじめが声をかける。みんなの動きがぴたりと止まる。
「急なんだけど、ゆめは明日、家に帰ることになったんだ」
「ええっ!? 追われているのに、家に帰るの?」
「はじめ、それだけはやめさせろ」
かえでと夏樹が慌てる。そうだった、そういう設定だったね。
「いや、あの次の親戚の家にいくんだよね? 朔さん?」
朔は急に話しかけられたにも関わらず、臆することなく説明した。
「はい、そうです。お世話になりました」
誰もそれ以上深く訊いてこない。
わかった、と小さく夏樹が言うと、みんな思い思いにうなづいた。
「明日、塾に行く前に家に寄るね、ゆめちゃんにお別れ言いたいし」
かえでと夏樹は朝家に寄り、零と詩織は明日は都合が悪いらしくよろしく言ってくれとのこと。向田はいつも通り出勤。朔さんは明日の午前中で仕事を終え、16時までにはここに戻るそう。
みんなを玄関まで送る。それぞれが挨拶をして、夕闇に去って行った。
家の中がシーンと静かになる。玄関で一緒に見送っていたウサギのゆめを抱き上げる。すりすりと頬を寄せるとゆめは気持ちよさそうにしていた。
「ゆめ、ありがとう。うまくテーブルに隠れたね。狭かったでしょ?」
月の入りの少し前からゆめにはマジックショーのテーブルの下に隠れてもらっていた。
変身の時間もそこで迎えた。冒険だったけど、思いのほかうまくいったように思う。