君が月に帰るまで
今日でお別れ。でも、はじめが望んでくれれば違う未来があるかもしれない。
はじめと一緒なら、なんでもいいな。どんなことでも楽しめそうだ。
最後は、はじめに委ねよう。そこまで考えて、ゆめはもう一度眠りについた。
──トントン
「ゆめ? おはよう? 起きてる?」
はじめの声が襖の方から聞こえて、目を開ける。
「んんっ……はい」
「ゆめ? 朝ごはんできてるよ」
「あ、今行きます」
ゆめは目を擦りながら顔を洗ってリビングへいく。向田はもう出勤していて、得意だというとろとろすくらんぶるえっぐ? というものを食べさせてくれた。この世のものとは思えない美味しさ。
月に戻ったらもう食べられないんだな。そう思うと悲しみが込み上げる。
「ゆめ、きょうはどこか行きたいところある? あんまり遠くはいけれないけれど……」
「……海にいきたい」
「海?」
「月には、海がないから。行ってみたい」
「わかった。うーん、今日の月の入りまでに帰って来られればいい?」
「たぶんだけど、場所はどこでもいいと思う。海でもどこでも、迎えに来るなら同じだから」
「うーん、でも見られない方が良くない?」
はじめがそう言うとくすくすと笑いが込み上げる。
「見えないように力が働いてると思うよ。来た時もそうだし」
なるほど、とはじめは小さくいって何か考えているようで、はじめの次の言葉を待った。