君が月に帰るまで
「いいんだよ、たくさんいなくて。好きな人に来てもらえば」
「僕、向こうのほうでビラを配ってきますね」
同好会の元気な女の子たちと一緒に、後輩も勧誘へと出かけていった。
はじめはふーっと息をついて空を見る。月が青空に浮かんで、白く光っていた。
「いつ、来るのかな……もうこないのかも」
ばたんと長机に突っ伏して想いを巡らせる。
ゆめを待っている3年半は、300年くらいの長さに感じている。勉強がたのしいおかげで、気を紛らわせることはできたけど会いたい気持ちは日に日につのる。
「はじめせんぱーい!! 入部希望者の子、連れてきましたよー!!」
はっとして体を起こす。
「はーい、ありがとう。じゃあこれに名前、か、い、て……」
名簿に名前と連絡先を書いてもらおうとバインダーを渡そうと、入部希望の子の顔を見たとたん、はじめはイスから落っこちた。
「大丈夫です? 先輩のこと探してたんで、ついでに勧誘して連れてきちゃいました。お知り合いですか?」
そう言う後輩の声なんか、はじめの耳にはもうまったく聞こえていなかった。
ツヤのある黒髪、くりくりの目。華奢な指先で水色のワンピースに身を包んだ女の子。
「はじめ! お待たせ!!」
はじめはヨタヨタと立ち上がり、腕を大きく広げたその子をぎゅっと抱きしめた。
「遅い、遅い、遅いよー」
「ご、ごめん。あっちだとすぐ時間たっちゃって……」
「もう、来ないかと思ってた」
「そんなわけないじゃん」
「ゆめ、おかえり」
はじめはゆめと唇を重ねた。前よりも深く、強く、艶かしく……。
「んんっ!!」
聞き慣れた声がしてぱっと唇を離す。
「はじめさま!!」
「あれ、朔さんも来てたの?」
「はい、いろいろご説明に」
「いいよ、説明なんて」
くすくすと笑いあう声が春の温かな陽気のなかに響いて、空へ舞い上がった。
(了)