君が月に帰るまで
本当はすべて自分でしなければならないのに、このざまだ。本当に地球人として生きてなんていけるのだろうか。その疑問が浮かんでは消える。でもこれを乗り越えないとお父さまに許してもらえない。はじめと協力するにも基礎知識がないのでは対等になれない。
目まぐるしく過ぎる毎日をなんとかこなす。一カ月もたつと朔は月へ帰って行って、いよいよ私一人になった。
小さなベランダから見える月を見るととてつもなく恋しいと思う。地球人になる、それを簡単に考えていたのかも知れない。涙がポロリとこぼれそうになるのを必死にこらえて、布団に潜り込む。来週からはいよいよ料理教室に通う。仕事もすることになった。私にできるのは踊りしかないので、朔が探してきてくれた日本舞踊の教室でアシスタントとして働かせてもらうことになった。
月の舞踊は、ひいおばあさまが地球で覚えてきたもので、ほぼ日本舞踊。そこは問題ないだろう。
料理教室に通いながら、日本舞踊の先生のアシスタントとして日々汗を流し、くじけそうになりながらも、弾丸で始まった花嫁修業は半年間続いた。
「月夜、一度月に帰って来なさい。もう心配ないだろう。こちらでの支度を済ませたら地球へ行くがよい」
借りていたあぱーとと、仕事はそのまま月に一時帰宅し、お父さまや乳母たちに別れを告げた。お母さまの墓へもいった。もう二度と月の土を踏むことはないのかもしれない。そう思いながら。