君が月に帰るまで
「お父さま、満月、お世話になりました」
「元気でね、月夜」
そう言って、満月は翡翠の勾玉をかけてくれた。
「これ……」
「あなたはいつまでも私の妹、いつでもまた想念を送ってちょうだい」
「月夜、わしからはこれじゃ」
そう言って、お父さまは地球鏡を取り出した。
「お父さま、これ……」
「可愛い娘の顔が見れなくなるのはさみしい。地球で言う、てれび電話じゃ。
いつでも話すことができるぞ。元気で。朔がまたはじめに説明するからの」
「ありがとうございます」
別れを告げて飛車に乗る。ぽろぽろと涙がこぼれるも、新しい生活にワクワクしていた。
「朔、はじめはどこなの?」
「確かこの大学だと聞いてきたのですが」
賑やかなきゃんぱすと言われる、学校の中ではじめをさがす。きょうはお祭りでもあるのだろうか。ものすごく人が多い。
「すみません、『いまとしはじめ』と言う人を知りませんか?」
私は、はじめとよく似た着物姿の男性に話しかけた。はじめの事を知っていたようで、連れて行ってくれるとの事。
私のこと大学生だと思ってるみたいだけど、大丈夫かな。
歩いていくと遠くに見える着物姿の男性。まちがいない、はじめだ。
月と地球の時間の流れるスピードが違うせいで、ずいぶん待たせてしまった。
とくとくと胸が高鳴る。
「はじめ、お待たせ」
にこりと笑いかければ、椅子から転げ落ちたはじめ。
それでもすぐ立ち上がって、抱きしめて口づけられた。あのころとは違う、深くて艶めかしいキス。
はじめ、待たせてごめんね。もうずっと一緒だよ。
(了)