君が月に帰るまで
「今から着替えるね。ちょっと待ってて」

そう言って、月夜は立ち上がろうとした。

「わわわっ! 部屋出てるから、着たら教えて」

あわててはじめは部屋からでていった。ああ、そりゃそうか。着替えも見せれば性的行為になるのかもしれないな。お父さま、さじ加減が難しいです。

月夜はさっと着替えるとはじめに合図して、和室の真ん中で舞の最初の位置についた。「あの、何か曲流せる?」
「え? 曲?」

「そう、ほらなんて言ったっけ、遠いところにいる人と話ができて、いろいろな情報が手に入る、手のひらほどの大きさの……あれ使えば流せるでしょ?」

「ああ、スマホね。曲、なんでもいいの?」
「明るいので」
「明るいの……ね……」

はじめはそう言いながら、すまほとやらを操作し、これだ! と叫ぶと、明らかに早すぎる拍子の曲が流れてきた。

こっ……これは!! はじめのすきなスリーピースバンドの、みんなを鼓舞して奮い立たせる曲……。これに合わせて舞を踊れと? あまりのはじめの天然さに月夜はうろたえた。

それでもなんとか合わせて、祝いの舞を踊る。舞だけは、きつく覚えさせられた。はじめを喜ばせられるのはこれくらいなものだろうか。

そう思いながら、妖艶に月夜は舞った。時折みせる流し目。チラッとはじめを見ると、ぼんっと赤くなって月夜をじっと見ている。

あんまり見ないで……。恥ずかしくなる。そう思いながら曲の終わりと共に、舞を終えた。はじめは思いっきり拍手をしていた。満面の笑みだ。

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