君が月に帰るまで
「大丈夫。和室にあるのはもう着てない物ばっかりだから。ちょっと埃っぽいかもしれないけど、着れるよ。母さんはそのタンスごと断捨離しようか悩んでたくらいだし。昔のでよければ洋服も何枚かはあるはずだから、好きなの使って」

「そう……わかった。ありがとう」

「僕、2階で寝るね。なんかあったら声かけて。そうだ」
「なに?」
「人でいられるのは、月が出ている間だけなんだよね? 昼間の月でもいいの?」
「うん、昼間でもいい」
「なるほど、じゃあちゃんと月の出入りを調べないとね」

はじめはすまほを取り出し、月の出入りの時間がわかるものを探しているようだ。

「毎日だいたい12時間くらいは月が出てるね。今週はちょっと様子見で、来週末、月に帰る前に少し東京観光する感じでもいい?」

はじめはゆめに、にこっと笑いかける。心に明かりが灯るとはこんな感じだろうか。

「ありがとう。楽しみ!」

***

時刻はもう午前0時を過ぎていた。
今日の月の入りは11時23分。向田に朝、紹介するときも、まだゆめは人間だろう。

「ゆめ、ちょっと教えて」

丸窓から月を見上げる姿は美しい。さすが月の姫。ゆめは、はじめに声をかけられて、顔だけこちらへ向けた。

「なに?」
「きみはつまり月の人ってことだよね? かぐやひめとは関係あるの?」
「大あり。かぐやひめは曽祖母(ひいおばあ)さまだから」
「ええっ!? でもそれじゃあ年齢おかしくない? 竹取物語の正式な成立は不明だけど、それでも9世紀か10世紀頃だと言われてる。曽祖母さまってのはおかしくない?」

はじめは腕をくんでゆめを見た。ふぅっと息をついて、ゆめは話し始める。

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