君が月に帰るまで
「月の人間は、寿命が300年くらいあるのよ」
「さんびゃく……!?」
「ちなみに、なぜ月に人がいるのかは、私たちにもわからない。ただ月の裏側に国があって、王国として成立しているのは確かよ。不思議な力も持ってる」
「不思議な力?」
「……、曽祖母さまも、帝に見せたと思うんだけど、ちょっと待って」

ゆめは正座して、目をつぶる。しばらくすると、すぅっと姿が消えた。
はじめはあまりのことに、押し入れの襖にガンっと背中をぶつける。

「──っ!!」

しばらくすると、またゆめは姿を表した。

「すごい……」

「私はほんの少しだけなんだけどね。もっと長い時間できる人もいるんだけど」

「私は力が弱い方。お父さまに家の恥って言われてる」

「家の恥……。僕と一緒だね」

「……そう……なんだ」

「うちの家は病院を経営していて、両親は医者、兄は大学の医学部に通ってる。僕は出来損ないなんだ。頭も良くないし、運動もできない。それでもなんとか褒められたくて、一生懸命やってるんだけどね……」

はじめは苦しそうに笑った。ゆめは真剣な眼差しを向けている。

「出来損ないなんて……そんな人ひとりもいないよ」

「ありがとう、でもしょうがないことなんだ。医学部に入れなければこの家出てくつもり。親ももう諦め入ってて、浪人はさせないって言われてるんだ。現役合格じゃないと世間体が許さないんだろうね」

眉根を寄せて、ゆめの表情は怒りを纏う。

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