君が月に帰るまで
「ううっ……」
その場に座り込むと涙が出た。いったい私が何をしたというのだ。自分の心に正直にいることがそれほど罪なのか。姫は思わず着物の合わせをぎゅっと掴む。情けなくて前屈みに突っ伏すと、お腹に違和感があった。
何だろう。石……?
長袴を少し引っ張って中を覗くと、小さな巾着袋が挟まっていた。中には、かわいらしい翡翠の勾玉の首飾り。ぎゅっと握ると、想念が流れてくる。
『月夜……きこえますか?』
『満月お姉さま?』
『曾祖母さまの翡翠の勾玉に、まじないを施しました。これで地球にいても連絡が取れます』
『ありがとうこざいます、心強いです』
『あなたの無事を祈ります。それと……』
『わかっています。月が出ている間は、謹慎が解けるのですね。この翡翠から出る力のおかげでしょうか』
姫は、目を閉じたまま翡翠を抱きしめて満月に想念を送り続ける。
『はい、そうです。謹慎が解けている時ならば、話ができると思います』
『わかりました。それもお姉さまの計らいですか』
満月は黙っている。秘密にせよと言われているのだろうか。何にしても、ずっと謹慎していなければならないと思っていたので、姫はありがたかった。
『翡翠はいつも身につけていなさい。わたしはいつもそばにおります』
姫は黙ってその場で頭を下げる。想念はやがて小さくなって消えた。翡翠の首飾りをそっとつける。ほんのり暖かい。外の様子は御簾でよく見えないが、もう月を出たのだろう。雰囲気が変わったのが姫にもわかった。
よくもまあ犯罪者をこんなにご丁寧に地球まで運ぶものだ。曾祖母様のときもこうだったんだろうか。呑気な音楽がかなでられている。