君が月に帰るまで
「ぼっちゃま、親戚のお嬢さまがいらっしゃるならお声かけてくださいませ」

「へぇっ!?」

なんで……。はじめはあまりのことに口をパクパクさせてうろたえた。

「坂井のお嬢様でしょう? ずいぶんご無沙汰でびっくりしましたが、東京へ受験勉強の武者修行にいらしたとか」

ゆめは、気まずそうに肩をすくめて、こちらを見ている。

「あっ……ああ、うん。そうなんだ。僕の塾に一緒に行くことになってて。ね?」

「はい、突然おじゃまして申し訳ありません。昨日は塾で夜遅くなってしまって……。二週間、よろしくお願いします」

「こんなにお菓子もいただいて」

仏壇の前には大量のお供物。なるほど、向田さんをうまくまるめこんだんだな。
「さ、ゆめさんもお座りになって。急いで食べないと遅刻ですよ」

あわてて向田が用意した食事をかけ込むと、着替えて出発する。ゆめの分のノートや筆記用具も持って。

ていうか、勉強なんかして、どうするんだ?

「はじめ、早く!!」

ゆめはもう準備をして玄関で待っていた。向田がパタパタとかけてくる。

「ゆめお嬢さま、ちょっと前のですけど履けるかしら?」

向田は、見たことのない靴を持ってきた。白色のかわいらしいサンダル。古そうだが、状態はきれいだ。

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