君が月に帰るまで
中学までは上の方にいたので、精神的ダメージがずんと重くのしかかった。

まるで自分が勉強ができなくなったよう。焦って闇雲に勉強しはじめるも、そもそも興味すらないので、頭に入ってこない。

それでも必死にやり続けてきた。
自主性などなく、すべては親の目、友達の目、教師の目からなんとか自分が外れないようにするため。

死んだ魚のような目になって、それでも手を動かし続けた。

ゆめのように、こんなに情熱を持って勉強する人がこの世にいたんだ。僕の知らない感情をいま体中で感じているのだろう。自分が情けなくてたまらない。
知識というものに、恋焦がれているようなゆめの顔は、はじめの心に影を落とした。

90分の授業が終わる。ゆめはずっと流星の放射点のままだった。

「どうだった?」

きくまでもないが、訊いてみる。

「私、日本の歴史に興味があったの。だからいろいろわかって嬉しかった。勉強がこんなに楽しいとは知らなかった。……そろそろ時間だし、帰るね」

「家まで送るよ」

休憩は15分。今から往復しても次の授業に間に合うだろう。

「はじめくん、先生からこれ預かってきたわ」

立ち上がろうとすると、かえでが次の授業のテキストの資料を持ってきた。

「ありがとう、えっと……」

慌てて確認するが、項目が多い。先に見ておかないとバタバタしそうだ。

「私、帰るね」

ゆめは静かに立ち上がって鞄を肩からかけた。

「ええっ!? ちょっと待って」

「いいの。じゃ」

目も合わせずに、教室を出ていくゆめ。顔色も悪かったような?

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