君が月に帰るまで
「ゆめさん、どうしたの? 調子悪いの?」

慌ててかえでも声をかけた。

「やっぱり送ってくよ」

「いいよ、ホテルすぐ近くだし、ありがとう。少し休む。また明日ね」

ホテル? なんだ? どういうことだ?

頭が混乱している間にゆめはさっと行ってしまった。

「大丈夫かしら? ゆめさん……あっ、はじめくん!?」

はじめは慌てて玄関まで走っていったが、もうゆめの姿はなかった。次の授業が終わって、昼休み。やっぱりゆめのことが心配だ。はじめは一度家に帰ろうと荷物をまとめていると、教室の入り口から声が聞こえた。

「わぁ、青山(あおやま)そのウサギどうした? 泥だらけだし」

なに? ウサギ? 泥だらけ? 人だかりの方を見るがウサギがいるかまでわからない。

「かわいい、ペット? 勾玉首飾りなんてさすがお金持ち!」

はじめは驚いて人だかりの方に走った。青山夏樹(なつき)、彼の周りから聞こえてくる情報は、泥だらけで、首に翡翠の勾玉の首飾りをしたウサギがいるということ。……ゆめに間違いない。

「ごっごめん、ちょっと通して!?」

人並みをかき分けて、夏樹のところまで来ると、タオルで巻かれ、夏樹の腕に抱かれてぷるぷると震えた白いウサギ。いまは汚れて茶色のブチのウサギ。

「ええっ!! ちょっ……どうしたの? こんなに泥だらけで……!?」

ガクガクと慌てて、顔が青くなる。何があったんだ!?

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