君が月に帰るまで
「あ、これお前の家の? いま隣の公園通ったらちびっこに追っかけられてて。泥の中に突っ込んで、ついでに足ケガしたみたいだから拾ってきた」

夏樹はちょうど良かったと言わんばかりに、はじめにタオルごとゆめを渡す。ゆめの足にはすり傷があり、少し血が出ていた。

「あっ、ありがとう。すぐ帰って洗わなきゃ……手当もしないと……このままこのタオル借りていい?」

夏樹は無言でコクンとうなづいた。

「はじめくん、私何かお手伝いできることある?」

かえでがすっと前に出て申し出る。

「あっえっと、僕のリュック持ってきてくれる? 肩からかけてくれたら嬉しい」

かえではサッとはじめのリュックを持ってきた。

「行きましょ」

「ええっ!? 行くってどこへ?」

「いいから早く!!」

あまりの剣幕に驚いて、かえでのうしろをついていくのがやっとだった。
「かえで! どこ行くの?」

かえでは、はじめの家とは逆方向に向かって歩いて行く。駅のすぐ隣にある動物病院。その病院の正面玄関にかえでは向かった。

午前中の診察終了の札がかかっているが
、かえでは臆することなく、ドアを開ける。

「ただいま、シャワーかりるね」

受付の人にそう言いながらずんずんと病院の奥へ進む。トリミング施設も併設した部屋のシャワー台へと向かう。

「早く、洗ってあげて。シャンプーこれ。お父さん呼んでくる」

かえではシャワーをザーッと出して温度を確かめると、手をパッパッと振ってハンカチで拭きながら行ってしまった。

はじめは、あまりのことに唖然としているが、腕の中で震えたウサギがいることを思い出し、あわててシャワー台に下ろした。

「ごめんね、ゆめ……いま洗ってあげるから」

シャンプーを泡立てて、そっと体を洗う。すごく冷たい。いったいなにがあったの? きょうの月の出は22時13分。それまで話が聞けないのか……もどかしい。

< 27 / 138 >

この作品をシェア

pagetop