君が月に帰るまで
耳の中まで入っている泥を近くにあった綿棒でかき出す。

「ごめんね、やっぱり一緒に帰ればよかった」

そういいながら、洗い終わるとすっかり白ウサギに戻ったゆめはプルプルと身震いをした。

「ちょっと、冷たいって!」

元気はありそうだ。あははと笑っていると、かえでがバタバタと父親を連れてやってきた。「お父さんはやく、足から血がでてるの、診てあげて!」

「なんだなんだ、まだメシの途中だったのに」

かえでの父、通称クマ先生は、クマのように大柄で優しい笑顔の先生だ。慌てて連れてこられて少々機嫌が悪そう。

「クマ先生、こんにちは」

はじめはシャワーを止めて挨拶をした。

「はじめくん、久しぶり。ハルは天国にいったんだって? かえでに聞いたよ」

ハルは前に飼っていたシバイヌ。何度もこの病院にお世話になった。

「はい……」

「それで、今度はウサギを飼ったんだね。きれいな白ウサギだ。どれ、診察台に乗せてみて」

かえでが持ってきたタオルでゆめを拭いて、診察台に乗せた。ゆめは怖いのかガタガタ震えている。

「大丈夫、クマ先生はとってもやさしいよ。足、診てもらおう」

寄り添ってそう声をかけると、ゆめの震えが少しおさまったような気がした。

「んー、骨は大丈夫だと思う。消毒だけしておこうか。もし腫れるようなら早めに受診して」

クマ先生は、消毒を取り出してゆめの足に当てた。ビクッとするゆめを支える。

「わかりました。ありがとうございます」

はじめは深々とお辞儀をした。

「はじめくん、よかったね」

かえではやさしい笑顔を向ける。

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