君が月に帰るまで
はじめはシャワーを浴びて、落ち着いた浅葱色の着流しに着替える。向田が用意した夕食のオムライスを食べて2階に上がり、勉強をはじめた。
塾講師の橘に、好きであろうといわれた古文にとりかかる。文法の基本、受験に必要なレベルの単語はほぼ完璧。ときどきイレギュラーな文法や単語が出てくることもあるが、前後の文脈から判断すれば、難なく訳せた。漢文も同様。
言われてみれば、好きだ。
模試でもほぼ満点に近い。
現代文も、古文ほどではないが、好きだ。
はじめの国語の模試の成績は、全国トップテンに入る。ネックは数学と物理。
完全なる文系であるのは、模試の結果からしてもあきらか。
それを理系の医学部目指しているのだから、側から見れば志望校を変えたほうがいいと思うのは当然だろう。
でもいまさら医学部志望をやめていったい何をすれば良いんだ。
はじめは、はぁーっと大きく息をついて、机に突っ伏す。
何がしたいかなんて、わからない。何をしたくないのかもわからない。
八方塞がり、四面楚歌、自縄自縛。
もうお先は真っ暗だ。
コンコン──
急に部屋のドアがノックされて、ビクッと体が跳ねた。誰?