君が月に帰るまで
パッと時計を見ると、22時53分。
今日の月の出は22時46分。ゆめはもう人間になっているだろうから、ゆめ……だと思うけど……。
はじめは念のため、バッドを片手にそっとドアを開けた。
「わぁぁぁぁ……っ!! なになに? 私、わたしだよっ!!」
あわてふためくのは、やっぱりゆめ。母親のタンスから出したのか、今日は白地に大柄の朝顔の浴衣姿。目鼻立ちがはっきりしたゆめは、柄にも顔が負けず、良く似合っていた。
「ああ、ごめん」
はじめは振りかざしていたバッドを引っ込めて、申し訳なさそうな顔をした。
「あのさ、ちょっと話したいことがあって……」
ゆめはうつむいて、胸の前で手を組んでいる。
「うん、僕も。部屋入る?」
「いいの?」
ゆめは心なしか頬が赤い。熱でもあるのか? 和室、暑かったかな?
「リビングじゃ、エアコン効いてないし。ここなら涼しいから」
ここならそのまま涼しい。あんまり電気の無駄遣いもしたくない。
「おっ……おじゃまします」
ゆめはそろそろと部屋に入ってきた。
はじめの部屋は、入り口から左手にベッド、奥の窓際に祖父が買い付けたアンティーク調の机に本棚。
右手には3畳ほどのウォークインクローゼット。部屋の真ん中にはベージュのラグと、丸いローテーブルがある。
きちんと整頓されて、清潔感もある。もちろん向田の掃除のおかげもあるが、見えるところはきれいな方が過ごしやすかった。
「やっぱりきれいね」
ゆめがぼそっと言う。