君が月に帰るまで
「ウサギになって、トイレから出たら小さい女の子がいて一緒にあそんでたんだけど、急に男の子たちが追いかけてきて、ビックリしちゃった」

あははと笑ってこめかみをぽりぽりかく手が、カタカタ小さく震えている。笑顔が消えて項垂れた。

「ゆめ?」
はじめはイスから立ち上がると、ゆめの隣に座って顔をのぞきこんだ。
やっぱり泣いてる。

「……ごめっ……目にゴミ入ったみたい」

ぐずぐず鼻水も出てきて、ずいっと吸いながらの笑顔は見ているこっちの胸が締め付けられるほど。

「……怖かった?」

ピクッとゆめの動きが止まる。小さく小さくコクンとうなづいた。

「ゆめ、ほんとごめんね。必ず、二週間楽しんでもらえるようサポートするから」

「はじめ……」

ゆめは涙を目にいっぱい溜めて、こちらを見る。よっぽど怖かったんだな。なんか話題変えてあげないと。

「あのね、かえでが今度うちにあそびに来たいって言ってたんだ。せっかくだし、地球で友だちできたら楽しいだろ? ケーキ買って、うちで一緒にお茶でも……」

バチーーーーンッ!!──えっ……な、なんで……。

はじめはゆめに平手打ちをくらって、床にドカンと倒れ込む。ゆめは、ボタボタと大粒の涙を流しながら立ち上がった。

「はじめのバカ! おたんこなす! すっとこどっこい! 鈍感男ー!!!」

わあわあ泣きながら、部屋を出て階段を駆け降りていった。えっ……なに? どこらへんがそんなに怒るポイントだった?

「ちょっ……ゆめっ!?」

はじめはあわてて追いかけたが、もうゆめは祖父の部屋に戻ったようで、一階は静寂に包まれていた。

はじめは訳がわからず混乱した。祖父の離れへ続くドアをドンドン叩いたが、ゆめが鍵をかけてしまって中には入れない。何度も問いかけたけど、反応はなかった。

もう、いったいなんなの?
お姫様の気持ちなんてわかんないな。
そう思って息をつくと、二階に戻り、中断していた勉強を再開させた。

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