君が月に帰るまで
「ねぇ、はじめ」
後ろから声がして、足を止める。
「なに?」
「かえでのこと、好き?」いきなり聞かれてボンっと赤くなる。
わなわなと震えながら振り返る。
「なっ、なっ、なんで……」
なんでわかったの? そんなに顔に出てたかな……。
「……ふふっ、わかりやすいね」
ゆめはスプーンを左右に振って、ニヤッと笑っていた。
「そんなの、ゆめには関係ないでしょ?」
「……関係あるよ」
「えっ!?」
「あっ、いや。あのね、ほら公園で助けてくれた男の子いるでしょ。名前がえっと……」
「夏樹のこと?」
「そうそう、夏樹。あれはかえでのこと好きだね」
なっ……なんと!? 夏樹が!?
「なんでわかるの?」
ニカっと白い歯を見せて「女のカン」と笑う。何も言い返す気にならない。
「もう、からかわないでよ。きょうは、ちょうど向田さんも用事あって休みだから、家でゆっくりして」
「わかった」
「お昼はどうする?」
「なんか、買いに行く。こんびに? だっけ? いってみたい」
「うーん……じゃあ、いまから買いに行く? 昼休憩の間に塾から戻ってきて一緒にコンビニ行って、また戻って……じゃちょっとキツイかも」
「了解。すぐ食べるからまってて。……っ!! なにこれ美味しいっ!!」
ゆめが食べ終わるのを待って、一緒に駅前のコンビニに出かける。ゆめはコンビニの入り口で立ち止まり、目を輝かせてキョロキョロあたりを見回した。きっと物珍しいのだろう。