君が月に帰るまで
謹慎期間が終わって月に帰れば、もう二度とはじめに会うことはない。地球鏡も取り上げられているし、記憶の中のはじめを思うしかなくなるだろう。

父親が決めた人との祝言が待っていて、その夜には夫婦の契りを交わす。そう考えると恐怖の念が押し寄せる。

『思いっきりぶつかれないもどかしさで、ぐちゃぐちゃね。月夜の心は』

何もかも、満月に見透かされて、顔がじわじわと赤くなった。

『思いを告げないってのを、条件にしてくるとは思わなかったよ』

『お父さまもお父さまだわ。あなたたちはそっくりよ。素直じゃなくて、不器用で。お父さまの御慈悲、素直に受け取りなさい。あとたった12日。されど12日。悔いのないようにね』

満月の想念はだんだん消えるように薄くなった。

はじめが好き──そう初めて思ったのはいつだったろうか。地球の様子を知るために使う地球鏡。ただの観察対象でしかなかったのに、いつの間にか心の中がぜんぶはじめで埋めつくされた。


たまたま地球人観察のための勉強で、私にあてがわれた人物。それが「はじめ」だった。

ひとりの人物を、1年間に渡って追いかける勉強。地球人はひどいという固定観念を植え付けるためのもので、見た目は良くても性格最悪みたいな人が選ばれる。

なぜはじめが選ばれたのかわからないが、最初の印象は優柔不断な臆病者。

でも、よく見ればサラサラのきれいな黒髪、端正な顔立ちに、色白の肌が美しい。

優柔不断なのは優しいから。
臆病なのは人の気持ちがよくわかるから。

それに気がついてからは、ときに傷つき、苦しみながらも一生懸命過ごすはじめの姿から、目が離せなくなった。

応援したり、共感したり。涙したり。
ゆめは、穏やかにはじめを見つめていた。

ずっと見ていると、はじめがかえでのことを好きなのが容易にわかった。

切なそうな顔、動揺した声、すぐ赤くなる体。そのすべてが、かえでに注がれているのを見て、ゆめの心に言いようのない気持ちが湧き上がる。

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