君が月に帰るまで
その気持ちは、はじめに対する嫌悪感だと最初は思っていた。かえでという高嶺の花にときめくなんて、どうかしている。バカなことだと蔑んでいた。

それが、もしかしたらかえでも、はじめのことを好きなんじゃないか。そう疑いだした頃からおかしくなった。

かえでは光るようなまぶしい笑顔を向けて、はじめにあいさつをする。はじめが困っていると、わからないようにそっと手助けする。用もないのに話しかけて他愛もない会話をする。

それを何度も見るうちに、ゆめの心に怒りにも似た、燃えるような気持ちが湧いてきた。いったいなんなのこの気持ち。胸がギュッと締め付けられて苦しい。

はじめにこっちを見てほしい。そんなことはできないのは百も承知だったが、ゆめは地球鏡に釘付けになった。それが恋だとも気がつかずに。

はじめに熱を上げているのは、すぐ大王の知るところとなった。

「地球人に恋するなど、言語道断!」

そう罵られた。地球人に恋? この私が? ああ、そうかこれを恋というのか。自覚したのはこの時だった。この気持ちに名をつけられて愕然としたと同時に合点がいく。

そこからは、あれよあれよといううちに重罪人にされてしまった。何度も本当に好きなのか、そう聞かれた。

聞かれれば聞かれるほど、思いが募る。嘘なんかつけない。悪いことなど何もしていない。

──ただ、あの人が好きなだけ。

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