君が月に帰るまで
それをなんとか諦めさせるために、地球へと送られたのだと思っていた。曽祖母さまも嫌気がさして戻ってきたのだから。私も同じことになるだろうと踏んでのことだろう。はじめの家が謹慎先だと知って、ゆめは血の気が引いた。はじめは、かえでが好き。たぶんかえでも、はじめが好きだ。

それをまざまざと見せつけて、落胆させ諦めさせようとしたのだろう。娘が傷ついて帰ってくることをもいとわない。最低な親だな。最初はそう思っていた。

最低な親と思ったが、チャンスは残されていた。2週間、やっかいになるかわりに、ひとつ願いを叶えるという交換条件。

はじめが望んでくれるのならば、また会えるかもしれない。自分のことを好きになってもらえれば……。

それもみこして今年家(ここ)を謹慎先に大王は選んだのだろうか。

でも、そんなの無理だ。今日だってケンカしてしまうし、うまく言葉で伝えられないし、はじめの気持ちはかえでに向いているし。

そう思ったらゲラゲラと笑いがこみ上げてきた。

「なんだ、最初からお父さまの手の中で転がされてたんだ」

ゴロンと体を横にして、大きな丸窓からよく手入れされた庭を見た。日はもうずいぶん高くなって、じりじりと暑さが部屋に充満する。

なんとも言えない焦燥感に頭がぼうっとする。でも、せっかく地球にきたし、はじめにも会えた。それは喜ぶべきことなんじゃないのか。

はじめにとって、この2週間が楽しく、素晴らしい時間だった。そう思ってもらえるよう、努力することだってできる。

いつか、曾祖母さまも帝からそう思われたように。

そう思って、ゆめは自分を奮いたたせる。泣いても2週間、笑っても2週間。それなら笑って過ごしたい。

どうせ帰ったら祝言が待っている。このまま、はじめへの気持ちを引きずっているのも、相手に失礼。

帰る日にはちゃんと好きだって言って、地球を去ろう。最後の日なら条件を破ってもきっと大差ない。せめてこの気持ちを昇華させたい。好きという単語を使えなくても、それを匂わせることぐらいはできるだろう。

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