君が月に帰るまで
「俺、かえでのこと好きなんだ」えーーーっ!!
きっ、昨日ゆめが言ってたとおりだ。えっでもなんでそれを僕に? 相手間違えてない? はじめはわかりやすくうろたえた。

「昨日、かえでに告白したらさ」

なっ……なに? 告白? かえでに? あまりのことに思考がついていかない。

「他に好きな人がいるから、ごめんなさいって断られた。大学合格するまでは彼氏も作らないって決めてるらしい」

ほーっ。そうなんだ。って感心してる場合か。かえで好きな人がいるんだ。

はじめは自分でボケてツッコむ脳内コント状態に陥り、正常に思考ができない。

「そっ……そうなんだ。でもなんで僕にそれを……」

夏樹はしばらくうつむいて黙っていたが、ゆっくり顔を上げた。

「かえでが好きなのは、お前じゃないかと思ってる」

「はっ……? かえでが僕のことを?」

もう思考は完全に停止した。なぜ? なぜそう思う? どこらへんが?

「俺は一度フラれたからって、簡単にかえでをあきらめるつもりはない。お前がかえでのことを好きなのも知ってる。だからこれは宣戦布告だ。手加減なんて、しないから」

なっ、えっ、ちょっ……待って、僕の思考を返して。

「ちなみに、俺はH大の獣医学部志望。意味、わかるよな」

かえでの家は動物病院。夏樹の志望校はH大の獣医学部。まさか、そこまで……? 思考の歯車が回り出す。

「つまり、かえでのことが好きだから? その先まで見据えて……?」

一度回り出した歯車は速度を上げて、ドクドクと夏樹の言葉を体全体に走らせ、ビリビリと手足が痺れる。

「まさか。そこまでじゃない。そばにいたいとは思うけど」

夏樹は切なそうな顔をして「じゃ」と立ち上がる。「そうだ」

何か思い出したのか、もう一度ストンと座り直した夏樹。いったいどうしたんだろう。

「昨日、一緒にきたおまえの親戚の、えっと……」

「あ……うん。ゆめのこと? どうした?」

「お前の家に住んでるの?」

はぇ? なんで知ってるの? まあ隠す必要もないけど……。はじめが口を開く前に、夏樹が切り出す。

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