君が月に帰るまで
「いや、そこは無理。M医大目指してるけど……」

「けど?」

黙りこんだはじめの顔を、かえでは覗き込む。あんまり近づかないで!!

「夏休み前はD判定だった。だからもっと勉強しなくちゃ」

「そっか……。お互いがんばろうね!」

憐れみともとれるその笑顔に、胸がギュッとなる。かえでは日本で1番難関と言われる大学の医学部にすら、楽々と合格できるくらいの秀才。
泥臭く勉強に明け暮れなくても、志望校には余裕で入れるのだろう。

なんだかバツが悪くなってかえでと早々に別れた。悪気はないのだろうが、あの透き通るような目で見つめられるのが辛かった。
階段を上がろうとすると、ウサギがドスンドスンと、お尻から器用に階段を降りてくるところだった。

「どした?」

そう声をかけて階段の途中で抱き上げると、ウサギは足をばたつかせた。1階まで連れて行って下ろすと、祖父の離れへまた走って行く。どうやらトイレらしく、ウサギはトイレのドアの前で、はじめが来るのを待っていた。

2階のトイレは洋式なので、きっと自分では上がれなかったのだろう。それなら1階の祖父の部屋で寝ようか。

ウサギがトイレに入るのを見送って、久しぶりに祖父の使っていた和室へ入る。
まだそこに誰か生活する人がいるかように、きれいに整えられた和室。
布団はときどき向田が干しているのですぐ使える。

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