君が月に帰るまで

「はい、サイダー」
「夏樹、ありがとう。わぁ、緑?」
「メロンソーダって言うんだ。お嬢様には面白いだろ? かえでは普通のサイダーな」
「あ、ありがとう」

かえではずっと普通のサイダーを飲んでた。夏樹は細かいところも気がつくんだな。さすがのかえでも少し顔が赤い。

はじめも戻ってきた。コーヒーを飲んだところで腕時計に目を落とすとビックリした様子。時間、もしかしてやばい?

「ああ、ゆめ。オンラインの英会話の授業14時半からだったよね。そろそろ帰る?」

おんらいん? なんだかよくわからないけど、まずいのはよく分かった。

「えっ? あっ、あぁ、そうだった。うん、もう帰ろうかな」

「そう、じゃあそろそろ出ましょうか」

あわててコーヒーをがぶ飲みしたが、この世にこんな不味いものがあるのかってくらいまずかった。はじめは美味しそうに飲んでたのにな。

「楽しかったー!!」
本当にそう思った。浮かれてすぐ階段になっていることに気がつかず、バランスを崩してつまづいた。本日二回目。「おいっ……バカっ!!」

先に出ていた夏樹に体を支えてもらって、落ちるのは免れた。

「んだよ、よく見ろよ」
「へへっ、ごめんごめん。私よく転ぶんだ──」

そう話すと、急にはじめが私の手を取った。あまりのことに石になる。

「……えっ。はじめ? どうしたの?」

はじめは何も言わない? えっ、どういうこと?

「ああ、ごめん。なんか助けるの遅くなった!! 時間差? 意味ないよね。ごめん」

あははと乾いた笑いをしながら、手を離して前を歩いていく。なんだったの?
モヤモヤが膨らむ。

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