君が月に帰るまで
駅と図書館の分かれ道でかえでと夏樹に挨拶をして別れ、駅へと向かう。

電車が動かないとかで、はじめは慌てていたけれど、ちゃんとどうするか考えてくれて、たくしーに乗って帰れることになった。

朔に会ったのは、偶然か必然か。とにかく元気そうで安心した。あれは朔も監視してるな絶対に。地球にいて地球鏡使えるのかな。

時間もギリギリだったので、家に着くなり玄関へと走り込んだ。向田さんに簡単に挨拶と授業があるからと伝えて部屋に入った途端に変身が始まる。

じわじわと体が温かくなってだんだん目線が低くなる。気がつくとウサギになっているのだから、不思議だ。なんだか今日はすごく楽しかった。宮殿に友だちはいないから、すごく新鮮に感じた。

また喋る機会あるかな。そう期待するくらい、楽しい時間だった。

はじめは二階で勉強するといって、部屋へ戻った。急に眠たくなってハートのクッションの上に乗ると、すぐ意識が遠のいた。

***

ゆめとはじめと別れ、俺はかえでと並んで、図書館へ向かってを歩いていた。

「なぁ、かえで」
「なに?」
「さっきちょっと聞こえたんだけど、イギリスK大行くのか?」
「えっ、あぁ。うん。T大医学部受かったらだけどね」
「ややこしいな。それが留学の条件か」
「そう、父親との約束。実は密かに留学の勉強もしてて。まだまだ勉強し足りないよ」
「イギリスって、何年行くの?」
「うーん、卒業したら企業で就職するつもりだから、10年くらいはイギリスかな。戻ってこないかもしれないけど」
「すげえな」
「青山くんは、志望大学どこ?」
「H大の獣医学部」
「そっか。青山くんなら余裕だね」

そう言われて目を細めてかえでを見た。一昨日の告白から、なんとなく避けられているような気がしていたから、普通に話せるのが嬉しかった。
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