君が月に帰るまで

「イギリス、行けるといいな」
「えっ?」

かえでは不思議そうな顔で俺を見た。

「かえでの夢、叶うといいな」

かえでの顔がほのかに赤くなっていた。嬉しそうでで、恥ずかしそうで、照れてるような……ちょっと、その顔はやばい。そんな顔見たことないぞ。

「応援されたの、初めて。誰かに言ってもほとんど否定されたから」

そう言って悲しそうな顔をする。たしかにイギリスの大学行って、戻ってこないなんて言われたら、親はびっくりするだろうな。

「そうか? かえでならできると思ったけど? 見た目とは違うだろ、心の中は」

そこまでいうつもりじゃなかったけど、かえでの悲しそうな顔を見たら、言わずにはいられなかった。

勉強する姿勢をみていると、なにか他の目的があるような気がしていた。目先の目標なんかじゃない、もっと大きな将来の夢のために勉強をやっているのだろうと。貪欲で、燃えるような決意が、あのかわいらしい体から溢れている。

天使の見た目とは違う。心の中は幕末の志士みたい。それに気がつくと、もっとかえでのことが知りたくなって、いつのまにか好きになってた。だからはじめのことを好きなことに、すぐ気がついた。

隣の席で見ていると、痛いほどそれを感じる。俺のことなんかまったく視界に入っていない。だから告白はきっかけにすぎなかった。フラれるのは当たり前。でもこうして今の状況になったのだから、告白はある意味成功だったと思う。

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