君が月に帰るまで
はじめは押し入れから布団を引っ張り出して、そこに寝ることにした。
トイレから出たであろうウサギは、不思議そうに廊下から中を見つめている。

「おいで、一緒に寝よう。ここならいつでもトイレに行けるから」

ウサギはとととっと走ってきて布団に潜り込んできた。なかなかかわいらしいやつだ。ふわふわの毛並みを撫でながら、眠りにつく。

昨年まで飼っていた犬も、こうやっていつも一緒に寝ていた。なんだか懐かしい気持ちになって、心がほわんと温かくなる。

久しぶりによく眠れそう……。いつもなら、不安や心配、焦燥感に襲われて眠るのに時間がかかっていたからだ。

どのくらい眠ったのだろう。祖父の部屋の丸窓から月明かりが入っていた。

京都の源光寺の悟りの窓を模した丸窓。祖父はよくここから月見酒をしていた。友人呼んで、将棋を指すこともあった。その姿はいつも楽しそうだったが、どこか憂いもあるような顔だった。

満月の時は一段とその顔に憂いが乗る。話しかけるのすらためらわれたその雰囲気。早くに亡くした祖母でも思い出していたのだろうか。いまとなってはそれを知る術もない。

今日は美しい下弦の月だ。あまりの美しさに体を起こすと、ふわっと甘い香りがする。

えっと思って目を下に落とすと、そこにいるはずのウサギはおらず、裸の女の子が気持ちよさそうに寝息をたてていた。

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