君が月に帰るまで

「じゃあ、帰るね」
「ゆめ、気をつけてね」
「はーい、ご心配なく」

ひらひらと手を振りながら、ゆめは帰っていく。もうどこからみても月の人には見えない。

「あれ、ゆめ帰ったの?」
夏樹が声をかけてきた。
「ああ、うん。英会話のオンライン授業だって」
「ふーん……。なぁ、あいつ来週には帰るんだろ? 昨日ちょっと聞いた」

図書館で話していた時だろうか。はじめは心臓がぎゅっとなるのを隠して夏樹と話し続けた。

「ああ、うん。そうだよ来週には帰るみたい」

「そっか。なぁ、あいつ帰ったらどうなるか知ってるか?」

「帰ったら? 知らないけど……」

「結婚するっていってたぞ」

「ええっ!? 結婚!?」

思わず大きな声が出る。なにそれ。

「家がそうだから仕方ないって言ってた。今どきそんなことあるのか? あいつもまだ18だろ?」

「うん……そうだね」

18歳かどうかは不明だ。はじめは、ゆめはいったい何歳なんだろうかと思った。
< 82 / 138 >

この作品をシェア

pagetop