クールな番犬くんは学園最強のオオカミでした
わたしを睨みつけていた彼が突然、目を開いて手を離した。
ほぼ同じタイミングで、わたしはなにかに引っ張られた。
後ろ襟を掴まれて。
「っ、」
前襟が首にめり込んで「うえっ」てなりかけたけど、次の瞬間にはもう、だれかの腕の中にいた。
あっ……よかった……。
すぅっと息ができる。
ドクドクとうめいていた鼓動が収まっていく。
ムスクの香りがなでるように鼻を抜けて、それだけで安心感に包まれた。
そんな心情とは裏腹にわたしの目に映ったのは、フィルムを切りとったようなワンシーンだった。
わたしを腕に収めながら蹴りを入れる斑と、それを腕で受けとめるしどーさん。
しどーさんが痛みに耐えるように顔をゆがませている。
突風が吹きあげるようにわっとこの日1番の声が上がったのは、そんなシーンの最中だった。