クールな番犬くんは学園最強のオオカミでした
足元に投げ捨てられたそれは、紛れもなくわたしのネームプレートだった。それも、ブラック色の。
拾いあげてじっくり見たって色も名前も変わらない。わたしの気のせいじゃない。
「意味わかんないです!なんでわたしが総長なんですか⁉︎」
「それがルールだからだ」
「ルール?」
「いいよな。ヤクザの家系ってだけで、なんの力がなくても総長になれるんだから」
「え?」
あっ……そういうことか……。
話が見えてしまった。
黒刃市では、組長がゼッタイ。
命令も意向も従わなきゃいけない……ううん、従うのが当然なのだ。
そんな組長の血を引くものは、たとえ本人が望まなくても特別扱いされる。
病院では並ばないでも優先で案内されるし、バスに乗ったら席を譲られる。
商店街で買いものをすれば、「おまけだよ」って安くしてくれるし、時にはタダでくれることもある。
どうしてかというと……ヤクザに睨まれたら怖いから、なんて理由じゃない。
純粋な好意。粋な計らい。
組長さんにはいつもお世話になってるから、っていう恩返しなのだ。
だから無碍にはできない。好意を「ありがとう」と素直に受けとるしかない。
でもたまに、度を越してひいきになったりすることがある。