初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる



「――何言ってるのお父さん?」
「ここでは社長だよ、樹理(じゅり)。今夜は久しぶりに役員全員が揃う。食事の席には君を同席させるつもりだ」
「……え」
「定時であがれると思ったのか? 残念だが、今夜は君を紹介する約束をしてしまったんだ」
「紹介って、誰に?」

 樹理が思い浮かべることができる役員の顔はどれもこれも旧知からの知り合いばかりである。改めて紹介するような人間がいるとは考えられない。
 けれど株式会社トミツリイの社長で樹理の父親でもある冨居(とみい)(たつき)はにこやかに笑っている。何か企んでいる顔だ。
 彼の秘書として秘書課の隅っこで働いている娘の樹理は、突然の呼び出しと社長命令を前に硬直する。

「我が社の売り上げが芳しくないことは君も知っているね」
「ええ。役員たちがいまのやり方では会社を保たせるので精一杯だと。そこで新たな風を社内に迎える、って」
「僕も若くない。今夜の会食で僕は社長の椅子から退き、会長職に就く。そこまでは?」
「存じております。後任に雲野ホールディングスの社長夫人である雲野(うんの)菖子(しょうこ)さまが」
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