死グナル/連作SFホラー
ランダム⑤
主婦:川上あいの場合



その川上さんが、あの像を脳に”取りこんでっしまった”のは、10年近くも前のことだそうです。


「…あの頃、ちょうど長男をお腹に宿した時期でね。言うまでもなく、”初対面”であの顔、完全にあの世に逝った人間のだって理解できちゃったし、その時は何かよからぬことが起こる前兆だろうって、そう決めこんじゃってた。お腹の子が無事生まれてこなかったらどうしようとかって…」


あの恐ろしい顔との初遭遇を、こんなさらっと話してしまうこの人って…!
なんと強い人なのかと…。
私は、彼女がそう語る顔をポカンと見つめていました。


***


「…まあ、ダンナは気のせいだろうとか、幻覚なんじゃないかって軽く受け取っててさ…。まあ、それがフツーだろうけど。なので、当初は私もしばらく様子を見ようってとこに留まっていたわ。とにかく子供を無事産むことに神経を集中させてさ、それこそ日々、ケガや病気にも気をつけてた。で…、無事に長男は生まれて、他にも特別何かが起こってってこともなく、まあ”終わった”のよね」

何のことはありませんでした。
この初回の経験は、私と基本的に一緒だったのです。
しかし…、本人的な受け止め方は全く違っていたと言えます。


”私にはとても無理…”


それが偽らざる私の本心でしたし。


***


「…これ、結果論で言えば、あの恐ろしい顔を見たことで、何かあったら困るから、気をつけなきゃって注意や自制を怠らなかったとね。そう言えない?」


”まさにその通りだわ‼”


私は心の中でそう呟いていました…。






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