二度目の好きをもらえますか?
 代わりに私の目は、彼の手元を追い掛けた。

 賢ちゃんは自分の物とは別に、フルフェイスの赤いヘルメットを持っていた。

 とりあえず、私の物じゃなかった事にホッとする。

「花織」と彼女の名前を呼び、彼が赤のヘルメットを手渡している。

「あたしのヘルメット、まだ持ってたんだね?」

「欲しけりゃやるよ」

「ふふふっ」

 胸の奥がジリジリと焼け付いた。

 いつまでも見ていたい光景じゃないので、私は背を向けて早々と家の中に引っ込んだ。


 *

 乳白色に濁ったお湯を両手に掬ってぱちゃぱちゃと音を立てる。

 お風呂の給湯器パネルに表示された湯温と時刻を、もう何度も確認している。

 PM.21:13

 バイクのエンジン音はまだ聞こえてこない。

 賢ちゃんが家を出たのは五時頃だ。彼が毎晩バイクを走らせていた梅雨時期を思うと、そろそろ帰って来るはずなのに音はまだ聞こえない。

 ちょうど隣りが賢ちゃんちの駐車場だから、その音がしたらすぐ分かるのに、私の耳はそれ以外の音ばかりを拾う。

 ハァ、と大袈裟な吐息がもれる。

 て言うか、遠距離ってそんなに遠いの?

 そんなに長く一緒にいるの?

 そもそも、別れたんじゃなかったの? 彼女の方に別に好きな人ができて、振られたって言ってたじゃん。

 また付き合ってるの?

 聞いてないんだけど!
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