二度目の好きをもらえますか?
 幾らか冷たい十月の夜風が頬を優しく撫でた。火照った体にはちょうど良い気温だが、濡れ髪だとすぐに湯冷めしそうだ。

「……か、彼女。送って来たの?」

「……。そうだけど」

「へぇ。か、可愛い子だね」

 賢ちゃんは眉を寄せて、若干首を捻っている。

 彼女とまた付き合ってるの?

 問いは私の喉元で固まり、なかなか声にならない。ハッキリとした答えが欲しいくせに、それを聞くのが怖くて、私の口は開いては閉じてを繰り返している。

「つーか、彩月、風呂上がりだろ」

「っあ、う、うん」

 さっきまで湯船に浸かっていたのを思い出し、恥ずかしくなる。頬がカァ、と熱くなった。

「風邪ひくぞ、早く寝ろよ」

 そう言ったきり背を向けられて、賢ちゃんは玄関の扉を開けた。

「……うん」

 返事と共に扉が閉ざされる。

 私は濡れ髪に触れて、自宅の玄関に戻った。

 ……聞けない。

 望みのない片想いなら、さっさと諦めなきゃいけないのに。

 賢ちゃんがあの子と付き合っているのかどうか、確かめるのが怖い。

 じわぁ、と目頭が熱くなった。

「さっちゃん? 急に飛び出してどうしたの、風邪ひくわよ?」

 黒っぽい玄関扉を背にして俯いていると、リビングからお母さんが顔を出した。

「……っ、何でもない」

 私は静かに洟をすすり、髪を乾かすため洗面所に戻った。

 ***
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