二度目の好きをもらえますか?
 赤い傘を両手で握り締めながら、賢ちゃんを見て驚き、不安とためらいの表情を浮かべている。

「来ないでっ! ほ、本当に飛び込むから!」

 花織さんは必死になって叫んだ。

「やめろ、花織ッ!」

 彼女のそばに立っていたおじさんがギョッとし、花織さんと賢ちゃんを交互に見て、幾らか距離を取る。

 私は即座に踵を返した。手すりを掴みながら、今し方上り切った階段を転がるように駆け降りた。一番線へと向かう。

 その合間でアナウンスが流れた。

《……まもなく一番線を、快速電車が通過します……危険ですので》

 まずいっ!

 足に力を入れて、私はまた一段飛ばしで階段を駆け上がる。

 花織さんの横顔を見付けた。彼女は賢ちゃんと迫り来る快速電車を見ながら、一歩前へ足を踏み出した。もう白線の外側だ。

「っ花織!」

 賢ちゃんの呼び声に焦りが生じる。彼女は赤い傘を足元に転がし、ぎゅっと目を瞑ると、両足を引きずるようにホームの淵へと運んで行く。

 心臓が冷やっと浮くような感覚が、手足の指先まで駆け抜けた。それまで持っていた傘を手放す。
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