if…運命の恋 番外編Ⅲ『愛に変わるとき』
家は開業医院だから、365日すべてが営業日みたいなものなんだ。
その頃、片瀬医院の医者である祖父は病気がちで、往診やら診療なんか殆どが僕がするようになっていた。その状況を知っているはずの春子が、旅行に行くんだとどうしても譲らない。話し合ったけど結局、春子の希望で旅行に行くことになったんだ。
『・・それで、旅先は何処に?』
「東京、、東京に行きましょ!」
『東京?』
「ほらッ、だってね、私まだ東京には行った事がないのよ。東京っていえば、イロイロ見所あるじゃない? ねぇー!そーしましょ」
『・・・でも、東京は遠いし、俊もまだ小さいから別の場所の方がいいんじゃないのか』
「私は東京がいいの。ねぇ?! イイでしょ? お願い」
春子にしては、珍しく我を通そうとする。
だから俺は、本当に何も疑う事無く春子に付き合ってあげようと思った。
結婚して、俊が生まれてからも、何の文句も言わずに嫁として母として、そして俺の妻として頑張って来た春子に少しでもプレゼントをするつもりの旅行だった。
俺が上京するのは、医学部の卒業以来だから、
あれから時間は随分経過していた。
それでも、東京のいろんな場所を目にすると、俺の胸の奥で何かチクンと針でも刺されたような気持ちになってしまうのだろうか? そんな事を考えてしまった。
窓側の席で俊を膝に乗せて、笑顔で小窓から白い雲を眺める春子をみて思わず俺の頭の中の想いを振り消したんだ。
「ねぇ貴方・・・・・でイイかしら? ねぇ?」
『えッ? あっ 何?』
マズイ、考え事してたせいで春子の話は聞いていなかった。春子は苦笑いをしながら小さくため息をつくと、もう一度言い直してくれた。