タタミノウラ/怪談調ホラー短編
その5
その5
悍ましきまじない
”なんてこった!なんとおぞましい…”
その後、保憲から聞かされた面川伊太造の行いに、小原源蔵は耳を疑った。
そして胸の内ではこう叫ばずにはいられなかったのだ。
「…警察の家宅捜索で大半の”お札”は詐欺行為のかどで没収されましたが、ごく一部のお札は父があらかじめ、別保管していた場所以外に供え於いておりまして…。その現物に父は願をかけ続けてきました」
「ああ、それじゃあ、お札の所持者に約した浄化を施したってことですね…」
「いえ…。小原さん…、父の伊太造は、あくまで自分は心無い連中に密告されたという被害妄想に取り憑かれてしまっていたんです。それで…、そこの畳の下に客人から実質、巻き上げた数十枚の現物を敷きつめて念じたのは、それらの人への恨みつらみだったようなんです…」
「!!!」
私は思わず絶句し、背筋が凍る感触に襲われてた。
***
「では、その伊太造さんが念じた現物は、今もそこの畳の下にってことですかい!」
「はい…。父も今は高齢で数年前から痴呆の気も患っておりますが、この部屋の畳下だけは頭から離れておらず、決して畳作業の手を加えてはならぬと言明を受けておりまして…。少なくとも、オヤジの生存中は当主である私もその言に従わざるを得ません。ふう…、以上が床の間下だけ畳替えをしない理由になります。私の話で小原さんが、工事を請け負うことに躊躇されるようであれば、率直に申してください」
「…若旦那、一つだけいいですか?」
「どうぞ、小原さん」
「伊太造さんの畳下への念じ掛けですが…、その結果で、誰か不幸に…、極端な話命を失ったとか…、怨念とか呪いって実効果は実際あったんですかね?」
「私の耳に入ってる限りではありません…。あくまで今のところですし、もしかすると私らの知らないところで念の犠牲者が出ていた可能性は否定できません…」
面川家の現当主は、最後まで小原源吉という老練の畳職人に対して実直を貫いた。
ここまで家の恥部、暗部を包み隠さずにぶち明けたのだ。
それが源吉にはしっかりと伝わった。
故に、迷った末、彼はこの名家の畳替えを承諾する決意に至った。
だがその弁は、どこか含みを持った言い回しになっていた。
「わかりやした!俺もいよいよロートルの域に入ったモンです。この道の本格仕事は尾棹楽今回が最後でしょうや。そんな折、この立派なお屋敷にたどり着いたのは、何かのご縁でしょうや。確かにそこの畳は気になります。無精なオレなんかでも、どこか因果を感じます。でも、敢えてそこは受け入れてもいいって気持ちになれましてね。なんでかってーと、それははっきりはわかりませぬ。ただ、若旦那と奥さんの人となりがあったのは事実です」
この言を聞いて、保憲は胸を撫で降ろし、彼の斜め後ろでずっと事の成り行きを黙って見守っていた妻は、目頭を押さえていた。
面川家の畳30枚マイナス1枚の工事はこの日から2週間後に着手され、およそ10日間で無事竣工を迎える。
そして、工事完了の最終確認と工事代金受け取りの日…、小原源吉は再び面川家の屋敷を訪れた。
ここで、彼は保憲夫妻へのある告白を胸にしまい込んでいた。
それは…!
悍ましきまじない
”なんてこった!なんとおぞましい…”
その後、保憲から聞かされた面川伊太造の行いに、小原源蔵は耳を疑った。
そして胸の内ではこう叫ばずにはいられなかったのだ。
「…警察の家宅捜索で大半の”お札”は詐欺行為のかどで没収されましたが、ごく一部のお札は父があらかじめ、別保管していた場所以外に供え於いておりまして…。その現物に父は願をかけ続けてきました」
「ああ、それじゃあ、お札の所持者に約した浄化を施したってことですね…」
「いえ…。小原さん…、父の伊太造は、あくまで自分は心無い連中に密告されたという被害妄想に取り憑かれてしまっていたんです。それで…、そこの畳の下に客人から実質、巻き上げた数十枚の現物を敷きつめて念じたのは、それらの人への恨みつらみだったようなんです…」
「!!!」
私は思わず絶句し、背筋が凍る感触に襲われてた。
***
「では、その伊太造さんが念じた現物は、今もそこの畳の下にってことですかい!」
「はい…。父も今は高齢で数年前から痴呆の気も患っておりますが、この部屋の畳下だけは頭から離れておらず、決して畳作業の手を加えてはならぬと言明を受けておりまして…。少なくとも、オヤジの生存中は当主である私もその言に従わざるを得ません。ふう…、以上が床の間下だけ畳替えをしない理由になります。私の話で小原さんが、工事を請け負うことに躊躇されるようであれば、率直に申してください」
「…若旦那、一つだけいいですか?」
「どうぞ、小原さん」
「伊太造さんの畳下への念じ掛けですが…、その結果で、誰か不幸に…、極端な話命を失ったとか…、怨念とか呪いって実効果は実際あったんですかね?」
「私の耳に入ってる限りではありません…。あくまで今のところですし、もしかすると私らの知らないところで念の犠牲者が出ていた可能性は否定できません…」
面川家の現当主は、最後まで小原源吉という老練の畳職人に対して実直を貫いた。
ここまで家の恥部、暗部を包み隠さずにぶち明けたのだ。
それが源吉にはしっかりと伝わった。
故に、迷った末、彼はこの名家の畳替えを承諾する決意に至った。
だがその弁は、どこか含みを持った言い回しになっていた。
「わかりやした!俺もいよいよロートルの域に入ったモンです。この道の本格仕事は尾棹楽今回が最後でしょうや。そんな折、この立派なお屋敷にたどり着いたのは、何かのご縁でしょうや。確かにそこの畳は気になります。無精なオレなんかでも、どこか因果を感じます。でも、敢えてそこは受け入れてもいいって気持ちになれましてね。なんでかってーと、それははっきりはわかりませぬ。ただ、若旦那と奥さんの人となりがあったのは事実です」
この言を聞いて、保憲は胸を撫で降ろし、彼の斜め後ろでずっと事の成り行きを黙って見守っていた妻は、目頭を押さえていた。
面川家の畳30枚マイナス1枚の工事はこの日から2週間後に着手され、およそ10日間で無事竣工を迎える。
そして、工事完了の最終確認と工事代金受け取りの日…、小原源吉は再び面川家の屋敷を訪れた。
ここで、彼は保憲夫妻へのある告白を胸にしまい込んでいた。
それは…!