さよなら、坂道、流れ星
「え…あ、そっか…」
「チズさ、俺は小清瑞から引っ越すの寂しがってないと思ってるだろ。生まれてから17年間過ごしたんだから寂しいよ。」
「………。」
よく考えたら当たり前だし、むしろ地元を離れる昴の方が寂しい筈だ、と今はじめて気づいた。
「…私って自分のことばっかりだね…。」
千珠琉はしゅんとした声で肩を落とした。
「べつにそんなことないと思うけど、それならそれで良いよ。俺がチズの分まで考えるから。だから…」
「だから?」
「俺は今日流れ星じゃなくて、チズにお願いしに来たんだ。」
急に思いがけないことを言われて、千珠琉はよくわからないという表情《かお》をした。
「流れ星じゃなくて、私に?」
「そう。チズしか叶えらんない願い。」
「え、そんなのあるかなぁ?」
きょとんとする千珠琉に昴はフッと小さく笑ってポケットから何かを取り出した。
「俺がバイトしてたもう一つの理由。」
そう言って昴が千珠琉の手に乗せたのは小さな箱だった。
「なに?これ。」
そう聞きながらも、千珠琉にはその箱の形から入っているのが小さなアクセサリーだろうということまでは見当がついていた。しかし、だとしたら“何故そんなものをわたされるのか”の理由には全く思い当たらない。
「開けていい?」
千珠琉の質問に、昴はこくっと頷いた。
パカッと蓋を開けると、シルバーに小さな透明の石がついた指輪が目に飛び込んできた。
「なにこれ」
「指輪。」
「指輪はわかるよ…じゃなくて、なんで指輪…昴が、え?私に…?」
「俺の願いごと。」
「え?」


「チズ、結婚して。」
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