The previous night of the world revolution~P.D.~
「どういうこと?セルニア…」

「ここに写ってる写真の人物を、帝国騎士団と共有しているデータベースと照らし合わせて、該当する人物を調べてみたんだ」

そこまでしてくれたんだ。

さすがセルニア、仕事が早い。

「それで?誰なの?」

「この写真に写ってる人物の中で、身元が分かったのは二人だけだった」

「二人…?ルレイアと、もう一人は誰?」

「いや、ルレイアは含まずに二人だ。正確に言えば、ルレイアもまだ身元が割れた訳じゃない。彼らは闇の戸籍を持ってるから」

あ、そうか…。

『青薔薇連合会』は、裏社会に所属する非合法組織。

まともな戸籍を持たず、闇から流れてきた、あるいは不法に購入した戸籍を使っている者も多い。

そういう者は、当然ながら帝国騎士団が管理する戸籍リストに載っていない。

ルレイアもその一人だっけ…。

お陰で私達は、ルレイア・ティシェリーが何処で生まれ、何処から来た、どのような身分の出自なのか、未だに分かってないのだ。

何処かに親兄弟はいるはずだが、それが何処なのか分からない。

ルティス帝国の生まれだとは思うのだが…。それだってあくまで推測だし。

…いや、今はそれよりも。

身元が判明した二人、というのが誰なのかを確認しよう。

「一人は、普通にルティス帝国市民権を持つ一般人の女性だった」

…一般人の女性?

何だか拍子抜けしてしまった。

何で一般人の女性が、『青薔薇連合会』の幹部達と一緒にいるの…?

「どれ?どの人?」

私は写真を覗き込んだ。

「この人だよ」

セルニアが、写真に写っている一人の女性を指差した。

この人が…。

顔はぼやけていて、どんな表情をしているのかよく見えない。

一体どういう関係で、『青薔薇連合会』なんかと一緒に…。

「名前は、セカイ・アンブローシア。帝都に住む一般女性。職業は主婦」

「『青薔薇連合会』との関係は?」

「元々は帝都の歓楽街で、長い間水商売をしていたみたいなんだけど…」 

成程、夜の仕事をしている人だったんだね。

じゃあもしかして、『青薔薇連合会』との繫がりはそこで…。

「…どうもその人、亡くなった母親が相当借金を残していたらしくてね。その借金が、まるまる彼女に押し付けられたらしい」

「借金…?その借金って…。まさか…」

私は、一つの可能性に思い至った。

まさか。『青薔薇連合会』はそんな汚いことを。

しかし、セルニアのこの表情を見るに。

私の推測が当たっていることは、明白だった。

「うん。借金をした相手は、『青薔薇連合会』の下部組織の一つ。恐らく…この女性は『青薔薇連合会』への借金のカタに、こうして従わされてるんだと思う」

「…!」

やはり…やはり、そうなのか。

ルレイア・ティシェリー…なんという卑劣なことを。

借金を背負わされ、身動きの取れない一般女性を脅し、無理矢理言うことを聞かせ。

こうして自分の傍に侍らせて、奴隷のように扱っているなんて。

私は、写真に写っているセカイ・アンブローシアさんの顔を見た。

ぼやけていて、表情は分からない。

でもきっと…酷く悲しい顔をしているに違いない。

借金に縛り付けられ、望んでもいない相手に無理矢理従わされて…。

今すぐに写真の中に飛び込んで、彼女を救ってあげたい衝動にさえ駆られた。

それが出来たら、どんなに良かったか…。

「…気の毒に…。何とかして救ってあげられたら…」

「…確かにその人も気の毒だけど、その人の隣に写っている人も」

「え?」

…そういえば。

写真の中で、身元が分かったのは二人だって言ってたね。

セカイさんと、それからもう一人は…。

「セカイ・アンブローシアさんの隣に写っている人、その人の身元が分かった」

相変わらず堅い表情で、セルニアが言った。
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