The previous night of the world revolution~P.D.~
「それでは早速、一品目。こちら、ブラックかき氷になります」

かき氷。

喫茶店の夏限定メニューとしては、定番だよな。

…まぁ、こんな真っ黒なかき氷は定番ではないけど。

透明なはずの氷は真っ黒、上にかかっているシロップも黒、付け合わせのアイスクリームも黒かった。

まさにブラックかき氷。

まるで墨汁をぶち撒けたかのような色だ。

「これって食べられるのか…?」

「食べられますよ。原材料は確か…」

「氷にはシェルドニアクロヒキガエルの唾液を混ぜ、シロップはシェルドニアクロオオスズメバチの蜂蜜で作っています」

華弦がご丁寧に説明してくれた。

蜂蜜はともかく…カエルの唾液か…。

…って言うか。

「珍しく華弦が絡んでるのは、原材料がシェルドニア産だからか…?」

「はい。ルティス帝国では、なかなかこのような食材は見つかりませんから」

…やっぱり。

それで華弦がいたんだな…。納得。

こんなことに付き合わされて、華弦も大変だな…。

カエルの唾液は気持ち悪いが、俺はスプーンを取って、かき氷をすくってみた。

…食べてみると、意外と普通のかき氷の味。

むしろ、スズメバチの蜂蜜がこってりと濃厚で、結構美味い。

氷もさらさらで、唾液が混じっているというのに、信じられないほど何の癖もない。

見た目のインパクトの割には、味は普通に美味しいんだよな…悔しいことに。

「これ…売価はいくらなんだ?」

「1杯2000円です」

「…高くね?」

そんなにすんの?かき氷なのに?

俺の中でかき氷のイメージと言ったら、夏祭りなんかで、屋台で300円くらいで売ってるアレなんだけど。

それに比べたら、およそ7倍の価格。

いくらなんでも高くね?

「なんか、唾液を採取するのが大変らしいです」

また原材料の都合か。

だったらもう、唾液なんか使うなよ。

「そんな気持ち悪いもの使わなくても…着色料使えば黒くなるんじゃないのか?」

全部着色料だったら、それはそれで気持ち悪いけど…。

少しくらい使っても良いのでは?

少なくとも、唾液で黒くするよりマシだと思うが。

しかし。

「駄目です。着色料で黒くするのではなく、天然素材で無添加の黒をお届けしたいんです」

何だ?そのこだわり。

「それにほら、『全メニュー着色料不使用!』ってテロップを入れたいじゃないですか」

「あ、そう…」

まぁ…気持ちが分からなくもない。

着色料で色を付けたんじゃ、夢がないもんな。

いかに天然素材だけを使って、この黒を再現出来るかってところが重要なのであって…。

…でもだからって、よりによってカエルの唾液のかき氷は食べたくないんだけど。

着色料入りのかき氷と、カエルの唾液入りのかき氷。どっちが良いよ?

どう考えても、俺は前者だと思うね。

…しかし、ルレイアはそうは思わないようで。

「もぐもぐ。これうめぇ」

「…アリューシャ…」

なかなかスプーンが動かない俺に反して、アリューシャは何の抵抗もなく、シャクシャクとかき氷を食べていた。

「お前それ…。唾液なんだぞ?カエルの…分かってるか?」

「え?カエルは美味いだろ?」

あまりに当たり前のように言われてしまって、俺としてはもう何も言えなかった。

逞しい奴だよアリューシャ、お前は。
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