The previous night of the world revolution~P.D.~
「それじゃあ次の商品。ブラックナポリタンです」

これまた、喫茶店の定番メニュー、ナポリタン。

しかし、俺達の前に出てきた皿に乗っているのは、ナポリタンとは程遠い色をした何かだった。

…ナポリタンって言ったら、普通赤いよな。

ケチャップの良い匂いがしてさ。

それなのに、今目の前にある…通称ブラックナポリタンは。

その名の通り、真っ黒なナポリタンだった。

「…ナポリタンじゃなくても、普通にイカスミパスタ売れば?」

黒い食べ物って、あんまり万人に知られていないけど。

イカスミパスタなら、既に誰もが公認している食べ物なんだろう。

見た目のインパクトは結構強いけど、食べると美味いよな、あれ。

それなのに。

「それじゃ駄目なんです」

オーナールレイア、謎のこだわりを見せていく。

何で駄目なんだよ…。良いだろ?イカスミパスタ…。

「このカフェでは、いかに『元々黒くない食べ物を黒くするか』が肝なんですよ」

「…あ、そ…」

何でそんなところにこだわってるのか知らんが…。

「これは…何で黒くしてるんだ?華弦…」

「シェルドニアクロトマトと、シェルドニアクロストカゲの内臓をすり潰して撹ぜています」

トマトは良い。

しかし、トカゲの内臓。お前は駄目だ。

聞かなきゃ良かった。気持ち悪っ…。

誰が望んで、トカゲの内臓を食べたがるよ?

…イカスミパスタだと思えば、抵抗なく食べられると思ったけど…。

食欲失せるわぁ…。

…一方で。

「うめーぞこれ」

「…アリューシャ…」

アリューシャだけは、相変わらず何の躊躇いもなく、もぐもぐとナポリタンを頬張っていた。

「お前それ、トカゲの内臓なんだぞ?」

「あ?トカゲも美味いだろ」

「…」

駄目だ。アリューシャの食生活についていけない。

アリューシャは、『青薔薇連合会』に入る前の路地裏生活が長いからな…。

「普通に美味しいですけどね」

「あぁ。味はナポリタンだな」

「…お前らもか…」

ルーチェスとルリシヤの二人も、平気な顔をして食っていた。

ルリシヤはともかく…ルーチェス、お前は元皇太子で、それなりの美食家だろうに。

そんなお前が、トカゲの内臓を食って喜ぶなよ。

王宮のシェフが泣いてるぞ。

「さぁ、ルルシーもどうぞ。味見してみてください」

「…分かったよ…」

仕方なく、フォークを使ってナポリタンを口に入れる。

これはイカスミ。イカスミパスタ。自分にそう暗示をかけながら。

「どうですか?美味しいですか?」

「…うん、美味しいよ」

イカスミパスタだと思えば、トカゲナポリタンも意外とイケるな。
< 167 / 634 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop