The previous night of the world revolution~P.D.~
「…もう一度言うよ。ルレイア・ティシェリー卿に会わせて。私は彼に話がある」

ほう、話ねぇ。

一体何が飛び出してくるやら。

「黙れ。ルレイアとは会わせない。お前が何を企んでるのか知らないが…」

「ルレイアは私達の家族よ。家族に手出しする奴は、誰であっても許さない」

ブロテの再度の要求にも、全く動じないルルシーとシュノさん。

ブロテも含めて、頑固者三人が勢揃い。

謙虚が人の形をしたような俺とは、大違いだ。

…さて。

俺はこの状況で、どうしたものか…。

…と、思っていると。

ブロテが動いた。

「…だったら仕方ないね」

…お?

ブロテは懐から一枚の紙を取り出し、印籠のように掲げた。

そのたった一枚の紙切れが、ブロテの持つ「切り札」だった。

それを見て、俺はブロテがどれほど本気でここに来たのかを理解した。

しかし。

「…?何だ、それは」

ルルシーはその紙が何なのか、分からなかったようだ。

「…」

シュノさんも怪訝な顔をしているから、彼女も知らないらしい。

…まぁ、普通は知らないよな。

俺も、制度としては知っていたが、実物を目にするのは初めてだ。

帝国自警団を、名ばかりの同人サークルと軽視することは出来ない。

その理由が、これだ。

愉快な同人サークルだと軽んじるには、こいつらは権力というものを持ち過ぎている。

…とはいえ。

帝国騎士団でさえ、ここ何十年と使っていない「それ」を…平気で切ってくるとは。

「帝国自警団の権限をもって、ルレイア・ティシェリー卿を連行します。これはその執行令状です」

「…!?」

これには、ルルシーとシュノさんもびっくり。

無理もない。

「連行だと…!?」

「ルレイアを逮捕するってこと?どうして…!」

愕然としているところ、申し訳ないが。

正確には逮捕ではない。

帝国騎士団と帝国自警団には、何らかの事情がある保護対象者を、強制的に連行し、保護する権限を持つ。

期限は原則一週間だが、何だかんだ理由をつければ、最大一ヶ月まで延長出来る。

つまりこれは、最大一ヶ月まで、強制的にその人物を「保護」の名目で閉じ込めることが出来る、という制度だ。

古くから、この制度は存在してるが。

実際にこの制度が利用されているところは、初めて見た。

「何を馬鹿なことを…!連行すると言われて、誰がみすみす連れて行かせると思う?」

「君達には逆らえないよ、悪いけど…。これは帝国自警団が、ルティス帝国政府から与えられた権限だから」

そうなのだ。

いかに天下の『青薔薇連合会』と言えど、ルティス帝国の司法制度に逆らうのは難しい。

ましてや、これほど突然、抜き打ちでやって来られては。

対策を立てる時間もない、というものだ。

やれやれ。強引なのは嫌いじゃないが…せめてもう少し、心の準備がしたかったですね。

ルルシーに、お別れの挨拶をする時間もないじゃないですか。
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