The previous night of the world revolution~P.D.~
…その焦りの色を見て、怪しいかもしれない、と思った。

まさかこんなところには隠さんだろう、というところに隠す…有り得そうな話だ。

迂闊だった、俺。ルリシヤがいてくれて良かった。

「邪魔するぞ」

「あっ、待っ…」

『霧塵会』リーダーの制止を振り切って、俺もルリシヤに続いて食堂に入った。

食堂の中には、10名ほどの構成員が食事の真っ最中だった。

食事中悪いな。

彼らは突如として入ってきた俺達を見て、ぎょっとしたような顔をしていた。

気にせず食事を続けてくれて結構だぞ。

俺達は、ただ隠しものがないかどうか確かめたいだけだ。

俺はテーブルクロスを捲ったり、食器入れや調味料ラックの中まで調べた。

こんなところに、何かあるとは思えないが…。

しかし。

「ただの食堂ですよ、ここは…。何を隠すものがあると言うんですか?」

『霧塵会』のリーダーは、若干焦ったような…ちょっと上ずった声で言った。

…怪しい。

食堂が怪しいと言うか、このリーダーの態度が怪しい。

食堂を調べ始めてから、明らかに態度がおかしくなっている。

さっきまでの笑顔の仮面は何処へやら。

とても何か隠せるような場所ではないけど、こいつの態度を見るに。

ここに何か隠しているのは、ほぼ間違いなかろう。

「邪魔するぞ」

「えっ…」

ルリシヤは、厨房にまで容赦なく入っていった。

「ルリシヤ、そこに何かあるのか?」

「俺の仮面の勘がそう言っている」

成程。

ルリシヤの仮面が言ってるなら、多分正しいな。

俺もルリシヤに続いて、厨房に足を踏み入れた。

絶賛調理の真っ最中で、調味料の匂いと煙が立ち込めていた。

「こ、困ります…!今仕事中でして…」

白いエプロンをつけた料理人が、困ったような顔で俺達に言った。

しかし。

「そうか。大丈夫だ、仕事の邪魔はしない。何なら手伝おう。料理は得意だ」

「えっ…」

ルリシヤはそう言って、調理台のまな板の上に置いてあった、切りかけのニンジンと包丁を手に取り。

見事な飾り切りの腕前を披露し、ねじり梅、菊、紅葉の形に切った。

…また妙な特技を…。

相変わらず器用な奴だよ。

まさか『青薔薇連合会』の幹部が、ニンジンの飾り切りをするとは思っていなかったらしく。

これには、調理人も『霧塵会』のリーダーも、口をぽかんと開けていた。

その気持ちはよく分かる。

ちなみに、俺はそこまで器用なことは出来ない。

普通にいちょう切りしか出来ないよ。悪かったな、不器用で。

今日は捜査をしに来たのであって、ニンジンの飾り切りをしに来た訳じゃないからな。あしからず。
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