The previous night of the world revolution~P.D.~
「焦げた痕…?」

「まるで、心臓を撃ち抜かれたような痕だったぞ」

「…」

ルーチェスは無言で、自分の胸を見下ろした。

…何か思い出したか?

「…全ッ然、記憶にありませんね」

やっぱり駄目か。

「ふむ…。服が焦げているだけで、外傷は皆無だったからな…」

「何だったんでしょうね…?」

俺達にも分からないし、ルーチェスにも分からない。

ただ一つ分かるのは。

ルーチェスが今こうして、元気に喋っているということだけだ。

「…とりあえず、この件については保留にしようか」

暗礁に乗り上げそうになったところを、アイズレンシアがまとめた。

…そうするしかなさそうだな。

「ルーチェスも覚えてないって言うなら、いくら聞き出しても仕方ないしね。何か思い出したら、その都度教えてもらうことにしよう。それで良い?ルーチェス」

「僕は大丈夫ですよ。異論はありません」

俺もだ。

「それから、もし体調に異変があったらすぐ医師の診察を受けること。これだけ約束して欲しい」

ルーチェスは素直に、こくりと頷いた。

「おいおい…。本当にそれで良いのか?敵の思う壺なんじゃ…」

心配性のルルシーが、アイズの楽観的な意見に意義を申し立てた。

「そうは言っても、現状私達に出来ることは何もないから。記憶のないルーチェスを質問攻めしても、出てくるものは何もないよ」

「それは…そうだが…」

「それより気持ちを切り替えて、取り逃がした『M.T.S社』のリーダーと幹部の行方を探すことに注力しよう。リーダーを見つければ、新兵器の情報も聞き出せる。その方が余程建設的だよ」

うーん。

ルルシーの心配も分からなくはないが、アイズの意見の方が説得力がある。

さすが『青薔薇連合会』次期首領、といったところか。

「…分かったよ」

これには、ルルシーも大人しく引き下がるしかなかった。

「元はと言えば、俺とルレイアが逃がした獲物だしな。何としてもリーダーを見つけて…締め上げて、ルーチェスに何をしたのか吐かせてやる」

そう、その意気ですよルルシー。

まぁ…恐らく、俺の予想が正しければ。

『M.T.S社』のリーダーは、ルーチェスに何もしてないと思いますけど。
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