The previous night of the world revolution~P.D.~
さて、こちらは俺とルレイアのテーブル。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

俺とルレイアのテーブルに来てくれたのは、いかにも爽やかで、清潔感溢れる正当系のイケメン執事であった。 

すげー眩しい…。少女漫画に出てきそうな風貌。

俺の拙い語彙力で、この人のイケメンぶりをどうやって表現したら良いのか。

すると。

「ご主人様の呼び方に希望はありますか?」

と、イケメン執事が尋ねてきた。

え?呼び方?

「俺は普通に、様付けで読んでくださって良いですよ」

「畏まりました、ルレイア様」

ルレイアは慣れた様子で、イケメン執事に指示していた。

「呼び方にバリエーションなんかあるのか…?」

「えぇ。君付けでも呼び捨てでもあだ名でも、好きに呼んでもらえますよ」

へぇ、それはまた…芸が細かいな。

俺達以外の他のテーブルでも、呼び方の希望を聞かれていたらしく。

「私はご主人様、で良いよ」

「アリューシャはアリューシャだぜ。アリューシャって呼んでくれ」

「俺は…そうだな。たまには自分が先輩と呼ばれてみたいから、ルリシヤ先輩と呼んでもらえるか」

「えーと、それじゃ…私はその…シュノちゃんって呼ばれてみたいかな」
 
「気さくに呼んでください、ルーチェスと。熟年夫婦っぽく、『お前』とかでも良いですよ。あ、敬語も要らないんで親しく接してください。長い間付き合ってるっぽい感じで」

それぞれ、執事さんにそう頼んでいる声が聞こえてきた。

前の5人は良いとして、ルーチェスは注文多過ぎだろ。

あいつなりにイメージと言うか…細かいこだわりがあるらしい。

あんな奴にも律儀に付き合ってくれるんだから、この人達は偉いよ。

サービス料、いくらでも払ってあげたくなる。特にルーチェスのテーブルの執事さん。

「ルルシーはどうします?」

「…任せるよ。好きに呼んでくれ」

「だ、そうです」

「畏まりました。それでは…今からルルシー姫と呼ばせて頂きますね」

「ぶはっ」

お任せでお願いしたら、とんでもないあだ名で呼ばれた。

それは有り得ないだろ。何で敢えてそれをチョイスした?

「良いですね。確かにルルシーは俺のプリンセスですし。それで良いですよ」

ルレイア。お前も勝手にゴーサインを出すな。

俺は「良い」なんて一言も言ってない。

「畏まりました。ではルレイア様、ルルシー姫。ご注文が決まりましたら、また伺います」

「はーい」

ちょっと待て。その呼び名を定着させるつもりか?

姫なんてとんでもない、普通に呼んでくれ…と。

俺が言おうとする前に、イケメン執事は丁寧にお辞儀をして、颯爽とテーブルから離れていった。

…。

…畜生。

「ルレイア、お前のせいだからな」

八つ当たりする相手がいないので、とりあえずルレイアのせいってことにしよう。

「何がですか?」

「勝手に『姫』呼ばわりされて…」

「可愛いから良いじゃないですか」

お前、他人事だと思って。

任せると言った自分の責任か。そうだな。

今度は呼び名は「ルルシーさん」で良いと、はっきり伝えよう。

…いや、今度なんてねーから。何でリピートする前提なんだ?

これっきり、これっきりだから。今日を我慢すればそれで良い。
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