The previous night of the world revolution~P.D.~
「恥もプライドもメンツも、そんなものは穴を掘って捨ててしまえ」

平然とした顔で、オルタンスははっきりとそう言った。

「帝国騎士団の責務は国民を守ること、そしてベルガモット王家の威信を守ることだ。帝国騎士団のメンツを守ることじゃない」

お前が言うと、説得力が違うな。

その王家の威信とやらの為に、ルレイアを切り捨てたお前が言うと。

「だから、俺達は『青薔薇連合会』の手を借りたことを恥じてはいない。何度あのときに戻ったとしても、同じ選択をしただろう」

…そうだな。

俺達は、そのときに選べる最良の選択肢を選んできた。

その結果が、『青薔薇連合会』の手を借りるというものだったのなら。

それは正しい選択だったのだ。国を守る為に、必要な選択だった。

その為なら、帝国騎士団のプライドなど、ちぎって放り投げてしまえ。

恥や誇りなんかより大事なものが、この世にはあるのだ。

自分達の力だけで事を解決出来ず、情けない気持ちは確かにあるけども。

無力を嘆いていても仕方がない。

俺達に力がないなら、力のある者の助けを求めるだけだ。

それが例えマフィアであったとしても、利害が一致しているのなら問題ない。

どのような手段を使ったとしても、結果的にルティス帝国を守ることに繋がるなら。

その為に、俺達帝国騎士団は存在しているのだから。

俺達だって苦肉の策だったのに、それを今更ぐずぐず責められて堪るか。

「それに、お前に俺達を責める資格はあるのか?」

オルタンスは、ブロテに向かってそう尋ねた。

…それは俺も思っていたが、わざわざ口に出す辺り…さすがオルタンスだな。

度胸があるのか、ただ相手に失礼なだけなのか分からんな。

「…何?」

「お前はルティス帝国にいなかったんだろう?祖国から離れて、アシスファルト帝国にいた」

「それは…。確かにそうだけど、でもそれとこれとは…」

「国に変事が起こる度、その場にいなかったお前に…後になって責められる謂れはない。口を挟みたかったなら、お前は祖国を離れるべきじゃなかった」

「…!」

そのときその場にいなかった癖に、今更口出しするんじゃねぇ、ってことだな。

確かにその通りなんだが、しかしそれを言っちゃおしまいだろう。

…既に言ってるけど。

「『青薔薇連合会』の手を借りずに、ならばどうすれば良かったと?他に具体案があったのか?」

「…それは…」

口ごもるブロテ。

オルタンスの大人気ないこと。

「…自警団に協力を求めれば良かった。私達はいつだって、ルティス帝国を守る為に…」

かろうじて、ブロテはそう口にした。

それも、手の一つではあったかもしれないな。

当時の俺達は、口の端に登らせることもなかった選択肢だ。

思いつきもしなかった。自警団の存在など。

助けを求められる戦力として、全くカウントされていなかった。

「あのときの帝国自警団に協力を求めて、何がどう変わっていたと?名ばかりの自警団に?」

本人を前にして、よくまぁそんな大人気ないことが言えるもんだ。

事実だけどな。

マリアーネとかいう女が団長代理を務めていた頃の帝国自警団は、全くの無力にも等しかった。

ましてや、『青薔薇連合会』に比べたら…大人と子供ほども異なっていた。

無力な子供より、富も権力も実力もある大人を協力者に選ぶのは、考えるまでもなく当然のことだ。
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