The previous night of the world revolution~P.D.~
この消し炭トースト…これはフレンチトーストだったのか。

真っ黒に焦げたトーストにしか見えなかった。

これの何処がフレンチトーストなんだ、と思って見ていたら。

オルタンスは、その消し炭フレンチトーストにナイフとフォークを入れ、一口大に切り分けた。

これが本当に炭の塊だったら、ナイフとフォークを入れたらバリッ、と割れそうなものだが。

どうやらかなり柔らかいようで、フォークで刺すと生地がへこんでいた。

更に、オルタンスは一口大に切り分けた漆黒のフレンチトーストを、ぱくりと口に入れた。

これが炭の塊なら、バリバリと音を立てて食べることになるが…。

そのようなことはなく、普通に噛んで普通に飲み込んでいた。

…マジで?

見た目に反して、意外と柔らかいらしい。

柔らかい炭ってあるのか?

「うん、なかなか行けるぞ。さぁ、二人も食べてみてくれ」

「…」

「…」

オルタンスに促され、俺とルーシッドは互いに無言で顔を見合わせた。

…よし、分かった。

「…ルーシッド、お前ちょっと、先に食べてみてくれ」

ルーシッドを人身御供に使うことにした。

悪いな。消し炭フレンチトーストに挑戦させられるくらいなら、俺は聖人君子は引退するよ。

「俺ですか…」

裏切られたみたいな顔で呟くルーシッド。

あぁ、お前だ。

俺が頷くと、ルーシッドは渋々フレンチトーストを切り分けた。

やはり、どうやら見た目に反してかなり柔らかいらしい。

あれで…?

ルーシッドは恐る恐る、そっとフレンチトーストを口に入れた。

ルーシッドがいつ噴き出しても良いように、紙ナプキンだけはしっかり手元に用意しておく。

…が。

「…あれ…。…え…?」

ルーシッドはきょとんとした顔をして、もぐもぐとフレンチトーストを咀嚼していた。

…その反応は何なんだ。何があった?

「どうだ?美味しいだろう?」

「…はい…」

オルタンスの問いに、ルーシッドは頷いた。

マジかよ。

オルタンスに続いて、ルーシッドの味覚までイカれてしまったのか?

世も末だ。

「ルーシッド。それ消し炭じゃないのか。どんな味なんだ?」

「え?いや、消し炭じゃないですよ。普通にフレンチトーストです。…普通じゃない色してますけど」

正気か?これが普通のフレンチトースト?

とてもそんな風には見えない。

が、オルタンスはともかく、ルーシッドが冗談を言うはずがないし…。

「アドルファス殿も食べてみてください。普通に…いや、かなり美味しいフレンチトーストですよ、これ」

とのこと。

…分かった。そこまで言うなら…。

例え実はやっぱり消し炭だったのだとしても、一口くらいなら大丈夫だろう。多分…。

俺は意を決して、ルーシッドに続いて漆黒のフレンチトーストを口にした。

すると。

「…あれ、普通に美味いなこれ」

「そうでしょう?」

消し炭とは程遠い、滑らかなとろっとした食感。

バターと卵たっぷりの、リッチなフレンチトーストの味だった。

ルーシッドの言う通り、驚いたことに、かなり美味しいフレンチトーストであった。
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