The previous night of the world revolution~P.D.~
一種の怪奇現象を味わった気分だな。

まさか、消し炭にしか見えないフレンチトーストが、意外なほどに美味しいとは。

しかも、フレンチトーストだけではない。

真っ黒なパイの方も、勇気を出して食べてみると、びっくりするほど美味しかった。

見た目じゃ分からないが、これはアップルパイなのだと、食べてみて分かった。

そして、飲み物の方も。

一見すると墨汁にしか見えないが、飲んでみると非常に香りの良い紅茶だった。

色が黒じゃなくて、ちゃんと普通の紅茶色だったら、もっと食欲が増していただろうに。

「喜んでもらえたようで良かった」

ご満悦な様子のオルタンスである。

喜んではいないぞ。

「あの…オルタンス殿」

「何だ?」

「これは、その…何故黒いんですか?」

と、ルーシッドは尋ねた。

当然の疑問である。

よく聞いた。お前は本当に偉いぞ、ルーシッド。

お前を連れてきて良かったと、心からそう思う。

「何故と言われても…。お前はチョコレートを見て何故黒いのかと聞くのか?白米を見て何故白いのかと聞くのか?」

「あ、いえ、その…」

屁理屈捏ねてんじゃねぇぞ、オルタンス。

チョコレートが黒いのは普遍の常識だし、白米が白いのも当然だろう。余程のことがない限りはな。

それと同じで、普通のフレンチトーストは黄色…黄金色と言うのか?その色が普通だし。

普通のアップルパイは、薄い茶色っぽい色が当たり前なんだよ。

間違っても、こんな漆黒のフレンチトーストと漆黒のアップルパイは普通ではない。

紅茶もな。

すると、オルタンスが一言こう答えた。

「…だって、黒い方が格好良いだろう?」

物凄く頭の悪い理由だった。
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