The previous night of the world revolution~P.D.~
僕は、自分の分とセルテリシアの分、飲み物とお菓子を用意した。

え?毒は仕込まなかったのかって?

やりませんよ。今回は純粋に、セルテリシアと「仲良く」なる為に来たんですから。

後で咎められるようなことはしたくない。僕の身の安全の為にも。

「はい、準備出来ましたよ」

「ありが…。…?」

飲み物の入ったコップを差し出すと、セルテリシアは首を傾げた。

「これは…?」

どうやら、僕の選択は正解だったらしいな。

セルテリシアは、コップに入った茶色の液体が何なのか知らないようだ。

「知らないんですか?これはコーラです」

「コーラ…ですか」

「飲んだことあります?」

「いいえ…聞いたことはありますけど。飲んだことは…」

やはりな。

セルテリシアに手土産を持っていくに当たって、僕は二つの選択肢を考えた。

いつもの、上等な紅茶と行列の出来るケーキのセットにするか。
 
それとも、紅茶とケーキではなく、もっと世俗的な飲食物にするか。

結局後者を選んだが、それには理由がある。

セルテリシアが、過去の僕と同じ立場に置かれているなら。

きっと、こちらの方がセルテリシアの心を掴むことが出来るだろうと。

そう判断したからである。

「何だかしゅわしゅわしてますけど…これは…」

「炭酸飲料ですからね。さぁ、ぐいっと飲んでみてください」

「は、はい…」

セルテリシアは恐る恐るといった風に、コップを口元に近づけた。

人生で初めてのコーラにビビってるのか、それとも毒物の混入を疑っているのか…。なかなか口をつけることが出来ないようだ。

何事も挑戦ですよ、挑戦。

チャレンジ精神を忘れてはいけません。

僕はお手本を見せるかのように、先にコーラのグラスを呷った。

うん、この口の中に広がる心地良い刺激。

そして、コーラ特有の甘ったるい独特の風味。

これぞって感じがしますね。

先に飲んだ僕を見て、セルテリシアも恐る恐る、グラスに口をつけた。

すると。

「どうですか?」

「え、えぇと…。何だか不思議な味…。ですけど…」

一回、二回、と続けてコーラを口に含む。

「面白い味で…癖になりそうですね」

気に入って頂けたようで良かったです。

炭酸飲料を受け付けない人って、一定数いるらしいので。

「それは良かった。飲まず嫌いでしたか?」

「いえ、嫌いという訳ではなく…。このようなものは全く…縁がなかったんです。飲み物と言えば、紅茶やコーヒーや緑茶ばかりで…」

あぁ、分かる分かる。

「こんな庶民の飲み物は飲んじゃいけない、って言われるんですよね」

「…それは…」

「炭酸飲料なんか飲んだら歯が溶けるから駄目!とか」

これ、僕がレスリーに言われたことです。

今思えば、前時代的にも程がありますよね。

「私は、脳みそが溶けるから駄目だって言われてました」

そんなパターンもあるんですか。

迷信ですよそれは。事実無根です。炭酸飲料への冒涜です。

ゲームや漫画もそうですけど、子供のときにそういうものを過度に禁じられていると。

大人になったとき、盛大に「反動」が来るらしいので。

何事も、適度に経験しておくのが無難だと思いますよ。適度にね。

案の定僕も、自由の身になった途端、昔禁じられていたあれこれを、今はやりたい放題ですよ。
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