The previous night of the world revolution~P.D.~
「あら。自信をなくしてしまったの?」

「自信をなくしたと言いますか…。少なくとも、血の正統性は向こうに分がありますから」

私はあくまで、「貧民街上がり」だからね。

高貴なサナリ・リバニーの血とは程遠い。賤しい生まれの人間だ。

血の正統性を尊ぶのであれば、私は『青薔薇連合会』の首領に全く相応しくない人間だ。

私より遥かに、偉大なサナリの血を継ぐセルテリシア・リバニーの方が相応しい。

しかし…。

「あら。血の正統性なんて、私にもないわ。私だってサナリ・リバニーの血は全く継いでないもの」

と、アシュトーリアさん。

それはそうですけど…。

「それにね、アイズ。私は別にサナリ派のやっていることを否定するつもりはないけど、でも、『青薔薇連合会』という実力主義の組織で、首領の座を世襲制にするのは間違っていると思ってるの」

「…それは…」

知っている。

だからこそアシュトーリアさんは、血の繋がりもない、貧民街上がりの私を次期首領に指名したのだから。

「『正しい』血を継いでいることと、組織の長の器を持っていることは、また別の話よ」

「…そうですね」

高貴な生まれの、暗愚な王もいれば。

賤しい生まれの、優れた平民もいる。

どちらが真に国を導く者に相応しいかと問われたら、意見が分かれることだろう。

だって、いくらその平民にリーダーの素質があろうとも。

平民には、上に立つ者として必要な資格…血の正統性がないからだ。

「ベルガモット王室や貴族のことは知らないわ。彼らは実力主義でも何でもないのだから、私達とは違うのよ」

「はい…それは分かりますが」

「『青薔薇連合会』はマフィアよ。常に『強い者』が組織の長であらなければならない。面子を保つ為にね」

面子…か。

ある意味、王族や貴族よりも大切なものだな。マフィアにとっては。

『青薔薇連合会』はルティス帝国最大のマフィアとして、常に威厳を保たなければならない。

いくら血の正統性があろうとも、弱腰のリーダーをトップに据えては、他組織に舐められてしまう。

アシュトーリアさんはそう思うからこそ、血の正統性など放り出して、私を次期首領に指名したのだ。

…アシュトーリアさんの言い分はよく分かる。

しかし、サナリ派の意見も頷けるものがある、と私は思っている。

単純に、何処ぞの馬の骨とも知れない貧民街のルンペンと。

偉大なサナリ・リバニーの血を継いでいる者とであれば、誰しも後者の方がリーダーとして仰ぎやすいだろう。

彼らにとっては、セルテリシア・リバニーが本当に『青薔薇連合会』の首領に相応しいかどうかは関係ない。

ただ、血の正統性があればそれで良いのだ。 

それに…多少セルテリシアにリーダーの素質が欠けているとしても。

彼女には、「優秀」な側近が二人もついている。
 
組織の頭にはセルテリシアを据え、実権を握るのは優れた摂政にする。

これで上手く行く。

そう思うと余計に、私は『青薔薇連合会』の次期首領に相応しくないのでは、と…。

すると。

「アイズ先輩。確かに血の正統性を尊ぶ一派は一定数存在するが、しかし反対に、実力主義を良しとする一派も多くいるのだということを忘れてはいけない」

ルリシヤが横から、私に向かってそう言った。
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